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本研究の独自性は,完全自動運転技術を活用した自動車共同利用システムを対象として,人々の利用意向に基づく需要と,システム運用戦略に基づく供給の両者を同時に扱うことで,より現実的かつ効率的な将来像について検討することが可能となる点である.また,大規模な電気自動車の台数を運用し,電力需要のピークシフトとモビリティの提供を高い水準で両立させることが可能となり,新たなモビリティシステムによる環境負荷削減を実現する事である.
 
本研究は,平成28年度から平成32年度の5か年に渡って継続的に取り組む.以下に本研究のフロー図を下図に示す.

 

<平成28年度>

(0)完全自動運転技術,電気自動車の燃料効率,自動車共同利用システムの技術動向に関する文献調査及び聞き取り調査
完全自動運転技術,電気自動車の燃料効率,自動車共同利用システムのいずれもが,近年大きく発展しているため,最新の技術動向に関する文献調査を行う.研究代表者の山本は全ての分野について,完全自動運転技術は研究分担者の三輪,電気自動車の燃料効率は佐藤,自動車共同利用システムは金森がそれぞれ担当する.また,名古屋周辺の自動車関連企業への聞き取り調査は森川が担当する.
 
(1)完全自動運転車による自動車共同利用システムシミュレーションモデルの構築
完全自動運転車による自動車共同利用システムの挙動を再現するためのシミュレーションモデルを構築する.トリップの出発地から目的地までの移動,次の利用開始場所までの移動,等を精度良く再現するには,詳細道路ネットワークを用いたミクロシミュレーターが必要であり,対象地域内のトリップ需要を入力として,共同利用自動車を最適に配車する運用アルゴリズムを内包したシミュレーターを構築する.
 
(2)自動車共同利用システムの利用意識調査と分析
現状の自動車共同利用システムでは,利用者は自動車を利用するためにデポまでアクセスし,自動車を自分で運転する必要がある.それに対して完全自動運転による自動車共同利用システムでは,出発地まで自動車が到着し,自分で運転する必要もなく,タクシーと同様のトリップが可能となる.このようなシステムの利用意向を利用料金や待ち時間を変数として,定量的に予測するための選好データを収集するため,アンケート調査を実施する.また,実施したアンケート調査結果の分析を行う.
 
 
 

<平成29年度以降>

(3)自家用車の利用を含めた自動車共同利用システムシミュレーションの構築
(1)で構築したシミュレーションモデルを拡張し,自家用車を自動車共同利用車両に用いた場合の運用シミュレーションモデルを構築する.ここでは,各車両を利用可能なサービス時間および車両の待機場所(保有者の自宅)が個別に設定されており,時々刻々と発生するトリップ需要に対して,出発地までの移動時間(利用者にとっての待ち時間)とサービス時間に対するトリップ時間(システムにとっての効率性)を考慮した運用最適化を内包したシミュレーションモデルを構築する.
 
(4)自動車共同利用システム普及時の自家用車保有意向と自家用車の共同利用への提供意向の分析
(3)で構築するシミュレーションモデルでは,人々が保有する自家用車を自らが利用しない時間帯に共同利用車両として提供する設定となっている.この実現には,人々が自動車共同利用システムが普及した場合にも自家用車を保有すること,および,自家用車保有者が自家用車を共同利用車両として提供する意思があること,さらに,自家用車を利用しない時間帯が共同利用車両として活用するのに適していること,が同時に成立する必要がある.ここでは,どのような世帯が自家用車を保有するのか,また,共同利用車両として提供意向があるのか,さらに,そのような世帯はどのような自動車利用パターンを持つのかを明らかにする.
 
(5)利用者の利用意向と車両提供意向を踏まえたシステムシミュレーション
(2)(4)での分析結果に基づき,(3)でのシミュレーションモデルを改良し,需要と供給の均衡状態を導くシミュレーションモデルを構築する.ここでは,待ち時間と利用料金によって利用意向が変化すること,および,需要パターンによって運用に必要となる共同利用車両台数が変化すること,運用上の必要度に応じて共同利用車両として用いる自家用車台数が変化すること,自家用車の提供による各世帯の収益が共同利用車両としての利用パターンによって変化すること,以上の状態によってシステム全体の便益が変化することを明示的に考慮した多段階最適化問題を解くこととなる.
 
(6)名古屋大学キャンパスを対象とした公用車の共同利用実験
本研究で構築するシミュレーションモデルの有効性を検証するために,研究代表者の所属機関である名古屋大学のキャンパスにおいて,公用車の共同利用実験を行う.研究代表者である山本は,所属機関である名古屋大学の交通専門委員会の委員をしており,大学全体の交通問題を取り扱う立場にあるため,大学の施設課と強固な協力関係を有しており,本研究での実験の実施についても大学からの協力を得ることが可能である.
 
(7)電力需要ピーク時の電力供給を考慮したシステム運用最適化モデルの構築
(5)で構築するシミュレーションモデルを更に発展させ,電力需要ピーク時に共同利用車両のバッテリーに蓄積している電力を電力系統に供給した場合のピークカット効果を算出する.ここでは,自動車共同利用システムとしての運用を損なわない条件でどの程度の電力供給が可能となるか,また,電力供給を最大化するために,共同利用車両に対する充電タイミングを最適化するアルゴリズムを内包したシミュレーションモデルを構築することとなる.
 
(8)名古屋市内での社会実験
(6)での共同利用実験を拡大し,名古屋市内での社会実験を行う.社会実験の実施にあたっては,名古屋市交通問題調査会部会長等を歴任する研究分担者の森川が調整役を務める.
 
(9)研究成果の取りまとめと成果発表
それまでの個々の研究段階で発表した成果を改めて取りまとめ,研究ワークショップを主催して研究成果を発表する.